ブライン
肉を塩水に浸けて柔らかくするテクニック。長時間のSVで肉汁が出てパサパサになってしまう問題への対処法を探して発見しました。
このページがとても科学的に説明してくれている。
よくある間違いにも触れているし、軽く翻訳しときます。
ブラインとは何か、どういう原理なのか?
食品、特に肉を塩水に浸ける手法。
ブラインした食品には主に3つの恩恵がある:
- テクスチャの改善。とくにタンパク質をブラインした場合に大きい。
- 香り付け。ブラインに使う塩だけでなく、同時にスパイスやハーブを浸かって香りつけできる。
- 最大の理由は湿り気の維持。
ブラインでは何が起こるのか?
よくあるブラインの説明は、浸透(osmosis)のプロセスによって水と塩がタンパク質に移動するというもの。だがしかしこれは正しくない。ブラインは浸透ではなくて実は拡散(diffusion)によるもので、この区別を把握することは、ブラインの原理を理解するために重要である。気体を真空の箱の隅に入れたら、箱いっぱいに広がっていくであろう。
十分な時間があれば、分子は密度の高いところから低いところへと移っていき、平衡に達する。これが基本的な拡散の動作である。
溶媒(水溶液の液体)は通すが溶質(水溶液に溶けてるもの)は通さない半透膜で隔てられた、濃度の異なる溶液があるとする。高濃度の溶液は溶質が多く、溶媒が半透膜を通る邪魔をする確率も高い。結果的に、濃度の低い側から高い側へと移動する溶質の量が多く、濃度は平衡へ達する。
また、浸透が起きていたならば、次の二つのことが起きているはずである。
溶質、つまり溶けている塩は大きすぎて浸透膜を通れない。が、私たちはこれは正しくないことを知っている。なぜなら肉の中身は明らかに塩味がするのだ。
二つ目。塩がタンパク質の外にある膜を通過できないならば、つまり浸透現象が起きているのならば、ブラインされた肉の中の水は、濃度の高い外のブライン液に流れ出るはずである。私たちはこれは正しくないことを知っている。なぜならブラインされた肉はよりしっとりとしているのだ。
簡単な観察から分かるように、ブラインをすると水も塩も肉の内部へと入り込む。ブラインでは浸透ではなく、拡散が起きていると結論付けられる。
ここにきて、ごく自然な疑問が浮かぶ。「香り付けは措いておくとして、何で塩が必要なの?拡散で水が肉に移動するのなら、水だけに浸せばもっとジューシイになるんじゃない?」
技術的に言えばそれでも可能である。
肉を単なる水に浸けて、肉の中の水分を増やすことはできるのだが、塩を加えた時ほど多くの水は足せない。はっきり言うと、調理過程でのタンパク質の保水能力は、塩があったほうが高い。
なんでこんなことが起きるのかは大変面白い。ここのところをさらに深く説明していこう。
ブラインのプロセスを理解する
ブラインのプロセスを理解するために、よくあるシナリオから始めよう。
骨も皮も無い鶏胸肉をブラインすることを想像してほしい。
ブライン液を作るために、塩を水に加える。
塩と言っているものは、化学的には塩化ナトリウムである。
塩が水に溶けると、正に帯電したナトリウムイオンと、負に帯電した塩化物イオンに分離する。
ナトリウムイオンは香りの主成分である。塩化物イオンはタンパク質の保水力を上げる。
次に、ナトリウムイオンと塩化物イオンが食物の中へと拡散していく。
この拡散は熱が伝わる速度よりも100から1000倍時間がかかる。
これが、豚バラ肉を焼くのにはせいぜい数時間ですむが、塩漬けしてパンチェッタにするのに三ヶ月もかかる理由である。
ナトリウムイオンと塩化物イオンが鶏胸肉中へと拡散していくと面白いことが起きる。
「塩化物イオンは筋繊維へ拡散していき、糸の表面に溜まっていく。
付着したイオンが増えていくにつれて負電位を生じ、隣の糸との間に斥力が生じて離れていく。
糸同士が離れて筋繊維が膨らむと、その空いたスペースに水が入り込む。」
上で言ったように、単なる水に浸けた肉よりも、塩水に浸けた方が保水力が高いのはこのスペースのせいである。
さて、もう一つ疑問が浮かぶ。
塩を擦り込んだのとブラインしたのの両方共ジューシイになるのはなんで?
実は、料理のドグマとして言われているところの、調理前に塩揉みした肉は大量の水気が出てきて乾燥した出来になってしまうというのは真実ではない。
単に間違っているだけではなく、タンパク質に塩を入れた時に起きることは全くの逆のことである。
「…入り込む水が周りに無い場合でも、水をより保持できるようにイオンによってタンパク質は変性する。筋繊維が縮むのに抵抗するのと同じように、調理中に水分を絞り出されるのに抵抗する。肉の膨張と保水力の向上は、塩分濃度6%まで続く。そこからは縮んでしまい、水も失っていく。」
よって、6%未満の塩分であれば、肉は調理中に縮んだり水を出したりしにくい。
現実的には、平均的な閾値は重量に対して 1%ほどである。
5-6%の塩分のあるタンパク質が調理中に水分を維持するとしても、別にそこまで塩分を含ませる必要はない。
3つの主要なブライン方法
ブラインのプロセスについて理解したところで、様々なアプローチについて考えていこう。
学んだことによれば、タンパク質に塩を適用するのに使える 3つの主要な方法がある。
塩もみ乾燥ブライン
最初の方法は手揉みでの「ブライン」である。
前節で見たように、単に塩を含めるだけで保水力を高めることができる。ブラインが保水力を高めるのとまとめて扱って、乾燥ブラインと考えよう。
とりあえずは、タンパク質の重量に対して1%の塩をまぶせばいいだろう。
塩を揉み込んである程度の時間寝かせておき(4-48時間)、洗い流さずにそのまま調理する。
このやり方は保水力を高めて水分の流出を抑えて湿り気のある出来栄えにするが、もちろんタンパク質はちゃんと調理する必要がある。
勾配ブライン(伝統的なやり方)
次は伝統的な勾配のあるやり方を考える。
勾配というのは、塩分濃度が外側のブライン液から食品内部にかけて滑らかに下がっていくからである。
この方法を使う場合、典型的には水分量に対して 5-10% の水を使い、食品はブライン液中に 15分から数日おかれる。
外側は塩分濃度が高いので、ブラインが終わったら洗い流す。
洗い流した後はしばらく休ませて、拡散によってイオン濃度が平衡していくのを待つ。
十分に休ませたら(一般的には数時間から一晩)、だいたい平衡に達しているはずである。
これは調理後に熱が平準化するまで待つのと同じ理由である。
拡散は熱伝導より 100-1000 倍遅いので、調理後の熱を伝えるためには 5-30分ほど休ませるのに対して、ブラインの後は 2-24時間かかるのである。
平衡ブライン(モダニスト料理)
勾配ブラインが高温のオーブン調理で時間調整と直感が必要とされるのに似ているように、平衡ブラインはスービードでの温度管理の簡易さと対比できる。
スービード調理のように、平衡法は長い時間がかかるが、より精密なやり方であり、同じ結果を得るために「直感」を排除することができる。
ブライン液の塩分量は、タンパク質内部の到達する濃度と正確に同じだけであり、ブラインし過ぎことはあり得ない。
平衡ブラインのやり方
- 水と肉の重量を測り、骨の重さを引く。塩は骨には拡散しないので。
- 水と肉の重量の和に、最終的にタンパク質が含むべき塩分濃度をかける(大体は 0.5%-1% でいい)
- 求めた量の塩を水に溶かし、そのブライン液に肉をひたす。
- 塩分濃度計でブライン中の塩分濃度を測る。塩分濃度が求めたい濃度より下がったら、食物とブライン液は平衡に達したと判断できるので、ブラインは完了である。
ブライン液の塩分濃度の決め方
勾配ブラインでは水重量に対して求める塩分濃度を掛けるけど、平衡ブラインでは水とタンパク質の総量に対して掛ける。この違いの理由について説明がある。省略。
ブライン液の追加素材とブラインの速度アップ
省略。
注射器使うと速いよ。
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